【質問】
 海岸侵食対策工法と適用にあたっての留意点について教えてください。

① 離岸堤工法
 これは、コンクリート・ブロックなどを岸から50~100m沖合いに、海岸に平行に設置するものです。通常、堤長100~200mのものを30~50m程度離して沿岸方向に複数基設置します。このような施設により、その背後に静穏域をつくり、そこに砂を集めて舌状の堆積地形(トンボロ地形)をつくり海浜の安定化を図ります。最も良く見られるのがこの工法です。離岸堤と離岸堤の間の開口部背後域の砂が離岸堤背後に移動することで開口部の汀線が後退することに注意が必要です。

② 突堤工法
 突堤工法は海岸から沖に伸ばした施設で、沿岸方向に移動する砂を阻止することで砂の移動量を緩和するものです。この工法も沿岸方向にある間隔で複数基の突堤を設置することが多いです。突堤の長さが長いと、沿岸漂砂を止めすぎるため、沿岸漂砂の流れの下手側に顕著な侵食が生じることになりますので、突堤の長さは慎重に決める必要があります。

③ ヘッドランド工法
 突堤工法の規模を大きくしたものにヘッドランド工法があり、突堤状のヘッドランド(人工岬)に挟まれた海岸を緩く湾曲した海岸形状(ポケットビーチ)にすることで安定化させるものです。茨城県鹿島灘では日本で最初にこの工法が適用されています(注1)。この工法はヘッドランド間で緩く湾曲した安定海浜を作り出しますが、中央付近の汀線が後退することを許容する必要があります。

④ 人工リーフ工法
 離岸堤などは効果があるものの、水面上にブロックなどが突出するため海岸景観を壊すことから、水面下の施設として人工リーフ工法というものもあります。これは、施設の天端が干潮時の水面下となる、天端幅が30~100mほどの施設で、サンゴ礁に似た浅瀬をつくることで、波浪を強制的に砕波・減衰させることで背後の海浜を安定化させるものです。しかし、波浪を強制的に減衰できるものの、減衰させた波浪のエネルギーが速い流れに代わることで、その流れにより施設周辺に洗掘が生じる場合もあり、その施設計画には注意が必要です。具体的には、波浪・海浜流のシミュレーションなどにより波・流れの状況を予測したり、さらには、その波・流れ場を用いた地形変化シミュレーションなどで水深の変化を確認したりします。

⑤ 養浜工法
 近年、注目されている対策は、不足している土砂を直接投入する養浜工法です。投入する土砂の調達の仕方によって、サンドバイパス工法あるいはサンドリサイクル工法と呼ばれる場合もあります。構造物によって砂の移動が阻害されている場合は、人為的に構造物をまたいで土砂を運んだり(サンドバイパス)、土砂が沿岸方向に移動した下手側でその土砂を採取し、上手側に戻してあげる方法(サンドリサイクル)です。これらの土砂の輸送にはダンプトラックや土運船などを使いますが、スラリー状にしてパイプで土砂を圧送する方法もあります(注2)。養浜材の粒度が現地底質材よりも細かいと沖に流出するなどして歩留まりが低くあることに注意が必要です。

注1)http://www.pref.ibaraki.jp/doboku/kasen/coast/034130.html
注2) https://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-430/040427html/sandobaipasu.html

【回答者プロフィール】
 高木 利光(たかぎ としみつ) S53年卒(S55年院卒)

所属・役職
 八千代エンジニヤリング株式会社 総合事業本部 河川部 技師長

略歴:
 1980年 株式会社アイ・エヌ・エー新土木研究所入社
 1980年~2014年 海岸部
 株式会社アイ・エヌ・エー新土木研究所は1991年に株式会社アイ・エヌ・エー、2010に株式会社クレアリアに社名変更
 2014年7月~ 八千代エンジニヤリング株式会社

資格:
技術士(総合技術監理部門・建設部門)、博士(工学)、土木学会フェロー特別上級技術者(防災)

委員会活動:
 土木学会海岸工学委員兼幹事